傑作は色褪せない「大神 絶景版」レビュー

先日、1つのゲームタイトルが2つめのギネスレコードに認定された。その内容は「動物キャラクターが主人公の最も評価の高いゲーム」という誇らしいものである。

ちなみに、最初のギネスレコードに認定された時の内容は「最も商業的に成功しなかったGame of the Year受賞作品」という誇れるものではなかった。

今回取り上げるのは、圧倒的評価を受けながら売れることなく終わった悲運のゲーム『大神』だ。

2006年にPS2で発売され、その後2009年にはWii版が、2012年にはPS3でHDリマスター版となる「大神 絶景版」が発売された。「大神 絶景版」は2017年には4K対応版となってSTEAM、PS4、Xbox One版が発売されている。

2018年にニンテンドースイッチ版が発売され、12年間で7つのハードで販売されたことになる。これほど長く、多くのハードに向けて発売されたタイトルというのも珍しい。

私は過去にPS3の「絶景版」をプレイしているが、今回はニンテンドースイッチ版で改めて「大神」の魅力に迫ってみた。ニンテンドースイッチ版は、当然ながら4K対応はしていない。実績システムもない。それらを必要とする場合は他のハードを選ぶべきだ。その代わりに、携帯できるという唯一の魅力がある。

目次

最大の魅力は独自性を放つグラフィック

和をモチーフとした世界観に水墨画風のグラフィックが実にマッチしている。

ビデオゲームの歴史はグラフィックの進化である。とりわけ、3Dにゲームが移行してからはグラフィックの進化がハードスペックの指標となっていると言える。

ハードが次世代に移るたびにグラフィックは進化してきたが、その大半がフォトリアルなグラフィックだ。よりリアルに現実を再現するかのように、多くのゲームが同じ方向を向いて来た。その流れは今現在も変わっていない。

ハードのスペックに依存するが故に、フォトリアルなグラフィックは最先端に慣れるともはや過去には戻れない。現在も続くシリーズものであれば、過去の作品の方が評価が高かったとしても、プレイする気は損なわれる。誰かに薦めるにしても、最新作を薦めるだろう。

「大神」のグラフィックの大元は2世代前のハードであり、12年前のものである。しかし、今プレイしても古臭さは微塵も感じない。多くのフォトリアルなゲームが溢れる現在で、むしろ輝きを放っている。

道中で訪れる竜宮城。水の中という表現もうまく作られている。

フォトリアル一辺倒になりそうなメジャー市場で、アンチとでも言うべきかトゥーンシェイドを用いたゲームはいくつかある。ただ、3Dと同化させることで違和感が生じているゲームも少なくない。個人的には、ジェットセットラジオくらいのレベルのトゥーンシェイドが、1番ちょうど良かった気がする。

「大神」は水墨画調の3Dグラフィックなのだが、違和感を強く感じるような破綻はしていない。リマスターされているとはいえ、12年前のゲームである。そのグラフィックの粗さがむしろ水墨画調のグラフィックと良い化学反応を起こしているように思えるのだ。

そして、水墨画風のグラフィックがよく動く。主人公であるアマテラスが動き出せば、足下の草が追従して動き、速度とともにグラフィックも変化する。背景も細かなアニメーションがあり感心させられる。

「この世の命が、蘇る」がキャッチコピーだけに、荒んだ景色が再生するシーンは実に美しい。

日本のアニメ風といった模倣は出来ても、海外の開発者にこの色彩感覚と水墨画の持つ鮮やかさ、柔らかは真似できまい。これを生み出せるのは日本人のみだろう。

だからこそ、12年という時間を経ても尚「大神」のグラフィックは輝きを放っているのだと思う。プレイしているだけで、日本人で良かったと感じる瞬間が多数ある。

断言しよう。「大神」のグラフィックは10年後も色あせることなく独自性を放っているだろう。プレイしてもらえれば、スクリーンショットを撮りたくなるシチュエーションが必ず訪れるはずだ。

「筆しらべ」は長所であるも、詰めの甘さも

「大神」のゲームジャンルはアクションアドベンチャーであり、ゲームの大まかなシステムはゼルダの伝説に似ている。この似ているというのは、「大神」を貶すものではなく、ゼルダがアクションアドベンチャーとして完成されすぎているというゼルダに対する褒め言葉だ。

「大神」の独特なシステムが『筆しらべ』である。ゼルダはダンジョンで新しいアイテムを手に入れ、それを用いて謎解き、ボス攻略を行うのが基本システムだ。ゼルダのアイテムにあたるのが『筆しらべ』ということになる。(独特と言いながら、ゼルダを例えに使っては元も子もないが、1番わかりやすいのがこの表現だと思う。)

足りない星を書いて星座を完成させろなど、謎解きは「筆しらべ」でクリアしていく。

『筆しらべ』は画面上に筆を用いて印を書くシステムで、書いた形によって様々な効果をもたらしてくれる。この筆しらべは全部で13種類あり、散り散りになってしまった分神と出会うことで増えていくといった流れになっている。

わざわざ画面上で「書く」なんてことをさせずに、選択式でいいじゃないかと思うかもしれないがこの画面上に書くというのが良いアクセントになっている。

どこに、いくつ筆しらべで書き込むか?というのが攻略の1つになっているし、筆を置いて走らせるというのが地味に気持ちが良い。擬似的なモーションコントロールと呼ぶべきギミックはうまく作用している。

書いた形を認識する精度は高く、下手な文字認識システムよりもしっかりと認識してくれる。肝となる部分にしっかりと力を注いであることはプラス材料である。

ニンテンドースイッチ版はモーションセンサー、タッチパネルによる『筆しらべ』に対応しているが、私は従来通りのコントローラー操作しか使っていない。試しに使ってみたが、スティックとボタンの方が確実性があり、楽なのだ。

Wii時代に半ばゴリ押しのように任天堂が多用したモーションコントロールは、今現在ほとんど使われていない。Kinectも消え、PSmoveも消えた。つまりはそういうことだ。

分神との出会いのシーンはコミカルで面白い。

特徴的な『筆しらべ』ではあるが、残念ながらそのシステムを活かしきれていない。13種類もありながら、その内多用するのは数えるほどしかない。ストーリーの進行と共に増えていくシステムだけに、後半に覚える『筆しらべ』は使いどころが限定的になり、活用の場がほとんどない。

思いもよらない効果を発揮する『筆しらべ』があったり、複合による謎解きなど光る部分があるが、もう少し『筆しらべ』を活用できるものがあればという、物足りなさがゲーム全体を通して感じられてしまうのが惜しいポイントだ。

心地よいアクションと物足りない戦闘

大神の開発は後のプラチナゲームズとなるクローバースタジオである。プラチナゲームズと言えば、「ベヨネッタ」が有名で最近では世界的な高評価を受けた「ニーア オートマタ」の開発元として知られている、アクションゲームに定評のある開発元だ。

2段ジャンプにも美しいエフェクトが用いられる。

大神は数少ない「操作することが楽しい」アクションゲームである。実際、主人公であるアマテラスを走らせる、ジャンプさせるという基本操作だけで楽しい。初めてプレイしたときに、マリオ64を遊んだ記憶が蘇ったほどだ。

操作レスポンスの良さは今でもトップレベルに入る出来だが、カメラワークは古いゲームのそれを感じさせる。カメラワークの悪さが、一部のアクションを難しくしている場面もある。そういった場面はそう多くないので、コントローラーを投げたくなるようなことにはならないのでご安心を。

百鬼絵巻と接触しないようにすれば戦闘の回避は可能である。

フィールド上に存在する「百鬼絵巻」と接触することで、敵とのバトルに突入する。戦闘時のアクションも小気味よく、攻撃がヒットする気持ちよさがあり爽快感がある。

一定のダメージを与えると、敵の色が変化する。

敵はそれぞれに特性を持っており、一定のダメージを与えると色が変化する。ここで本作の特徴でもある「筆しらべ」を使い弱点を突くと大ダメージを与えることができる。

この「筆しらべ」で弱点を突くというのが、少々わかりにくい。私の発想の乏しさもあるかもしれないが、最後までどの筆しらべが有効なのかがわからずゴリ押しで戦った敵も何体かいる。また、後半は火力がかなり高くなるので解答を見つける前に戦闘が終わることもあった。

序盤は筆しらべの選択もわかりやすいが後半になるとわかりにくい。

戦闘におけるアクセントになるのが、特定の倒し方をすると敵が落とす「妖怪牙」の存在だ。敵を倒すと、スローになり色が変化する。この時に適切な筆しらべで攻撃すると「妖怪牙」を落とす。この「妖怪牙」は一定数集めると、特殊な効果を持った装飾品と交換することができる。

妖怪牙は早めに集めておくと攻略が多少楽になる。

敵のバリエーションがもう少しあったら面白かったかもしれない。後半は序盤に出てきた敵のバージョンアップ版といった形になるので、新鮮味は薄れてくる。これは、雑魚戦に限らずボス戦にも言える。「筆しらべ」という特徴的なシステムがあるだけに、もっと色んなバトルがしてみたかったというのが、正直な感想だ。

大神は戦闘に限らず、全体を通して難易度は低いゲームである。回復アイテムは余るほどに手に入るし、アドベンチャーパートでも複雑な操作を必要とする場面はほとんどない。アクションゲームが苦手という人でもクリアまで行けると思う。逆に、ゲームに慣れた人には物足りなさを感じる場面が多くなるかもしれない。

おとぎ話をブレンドしたコミカルなストーリー

まんが日本昔話が放送されていたのも今や昔。子供に与えるのも本よりもアプリとなった今、若い世代にどれほどおとぎ話が響くのかはわからない。それでも日本のおとぎ話をうまくブレンドしたストーリーは面白かった。

すずめのお宿など、昔話にそった場所が出てくるのも魅力である。

主人公であるアマテラスは動物故に、物語上人間の言葉を話すことはない。これはアマテラスを中心にした人間たちの物語である。口うるさいと思ったイッスンも、後半になれば愛くるしいキャラクターになっているだろう。

オロチを倒した子孫というスサノオの苦悩。ウシワカの目的など、実に人間くささが溢れた登場人物が多数登場する。

時にシリアスに、時にはコミカルに起伏に富んだストーリーは見ていて飽きない。

しかしそれも、おとぎ話をある程度知っているが故に感じるものかもしれない。元ネタはあの話かといった考察が出来る出来ないで、ストーリーのとらえ方は変わるかもしれない。

お子様とプレイするならば、日本のおとぎ話をお子さんに解説しながら遊んでほしいゲームでもある。

まとめ

色使い、グラフィック、アクションの気持ちよさ。12年の時を経ても尚、大神は輝きを放っている。

ゲーム自体に古さ故の欠点は存在するものの、今でも十分楽しめる傑作である。

これだけ多くのハードで長い間発売されているが、セールスは思ったほどではないのだろう。ニンテンドーDSで続編が出ているが、今後続編というのは期待できないといっていいだろう。

それでも、任天堂タイトルを除けば子供から大人まですべての人にお薦めできるゲームというのは数えるほどしかない。

殺伐としたゲーム、陰鬱なゲームに疲れたときに「大神」を思い出し手にとってもらえたらと思う。きっと、心に残る1本になるだろう。

個人的ゲーム採点

9.5/10

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