何かを作ることは楽しいものだ。
家具を組み立てる。料理をする。作物を育てたり、小説を書いたりといった出来上がりを想像しながらスムーズに、時につまづきながらも完成に至った時の喜びは、何者にも代え難いものがある。たとえ出来上がった物が不出来でイマイチだったとしてもね。
任天堂が新年1発目に発表した『Nintendo Labo』は可能性にあふれた商品だ。
ダンボールを組み立てて、そこにSwitchのJoy-Conをはめ込んでコントローラーを自作するというのが『Nintendo Labo』の大雑把な説明となる。
『Nintendo Labo』の生み出す可能性
『Nintendo Labo』を料理に例えて見てみよう。
つくる
初めの「つくる」は料理においても「つくる」になる。
カレーにせよ、肉じゃがにせよ、まだ見ぬ料理を作るにせよ食べるためには作らなければ何も始まらない。失敗したくないので、多くの人は料理本のレシピを見たり、COOKPADを参考にしたりするだろう。
『Nintendo Labo』にも説明書がしっかり用意されている。
この説明書がすごいのは、「うごかせる」説明書であること。動画のように再生されるものを、カメラを動かして別の視点からも確認して作ることができる。
家具の組み立てや、プラモデルを作ったことがある人は分かると思うが、紙だけの説明書だと同じような部品があった場合、向きや位置などが載っている図ではよくわからないことが多い。角度を変えて見ることができると失敗も少なくなると思う。このあたり、任天堂らしいなと感じてしまう。
料理においても、レシピサイトよりも動画サイトの方が人気があるあたり、失敗しないためには動画の方がわかりやすいということなのだろう。
あそぶ
「あそぶ」は料理では「たべる」になるだろう。
「Variety Kit」はリモコンカー、つり、バイク、おうち、ピアノと5つのキットが盛り込まれているので、さながらコース料理のように楽しめる。
自分で作った料理が、不格好でも食べてみたらおいしかったという経験はないだろうか?(中には自分で作ったが故においしくないという場合もあるが…)同じように自分で作った物という特別感は、遊ぶ際に面白さを増幅させてくれると思う。
わかる
料理において「わかる」は、味付けや下ごしらえをする意味を理解するということになるだろう。調味料を入れ忘れていたり、時間が無くて下ごしらえの工程を飛ばしたりしたときの料理は味が微妙だったりする。
後から考えると、あそこで失敗していたかと今回の料理を誰もが振り返るだろう。次はこうしてみようと考えるようになる。
『Nintendo Labo』の「わかる」も同じように、遊んでいる際に感じた疑問を確認することにある。
「あそぶ」までにやったことと言えば、ダンボールを組上げて、Switchを取り付けただけ。誰もがそれだけなのに何でこんな遊びが出来るのだろうと考えるだろう。その答えがわかる仕組みも、しっかりと用意されている。
アレンジが生み出す無限の可能性
料理を作って、味付けや下ごしらえなど最終的な味を生み出す要素がわかってくると、そこから自分好みの料理にしたいと思ってくるだろう。
もっと甘みがあった方が、塩気が、辛味があった方が…と言った具合に、レシピ通りよりもアレンジを加えたくなる。料理はそうして無数に進化してきたのだと思う。
『Nintendo Labo』もそんな欲求に応えてくれる仕組みをちゃんと持っている。ここにたどり着いてからが、『Nintendo Labo』の本当の楽しみではないかと思えるほどに。
Toy-Conガレージは『Nintendo Labo』のアレンジだ。
実際にどこまで入力と出力が可能かなど詳細は今ひとつ不明ではあるが、「Variety Kit」に用意されている物の応用くらいは一通りできるのではないかと思う。
完全なプログラミングではないだろうから、何かと何かを組み合わせてこんな動きをする。それを複数組み合わせて、オリジナルのToy-Conを作るような形になるのだろうと予想する。
現役の子供だろうと、いい年した大人だろうと誰もがごっこ遊びをした経験があるだろう。ギターを弾くまねをホウキを使ってやったり、円盤状のもを回して運転ごっこをしたことはあると思う。
『Nintendo Labo』は空想でしかないごっこ遊びに、デジタルの要素でリアルさをもたらすソフトだと思う。
新たなスターや、販売網を生み出す可能性はあるか?
発売後にはCOOKPADのような『Nintendo Labo』のレシピ集のようなものが出て来るだろうと個人的には予測する。(既に用意を始めている人もいるかもしれない)
現実にあるものを再現するするためのToy-Conプログラムの組み合わせを考える職人と、ダンボール部分の「ガワ」を作成する職人も現れるだろう。そこから収益を生み出すことも出来そうだ。
思いも寄らないものを作り出す人も現れるかもしれない。それはもしかしたら小学生かもしれないし、お爺ちゃんかもしれない。
企業として『Nintendo Labo』のダンボールを販売する会社が出てきてもおかしくない。任天堂がどこまでそれを認めるかわからないが、ライセンス契約の元に販売できるなら、Switchというプラットフォームの元に『Nintendo Labo』という新たなプラットフォームが生まれる可能性がある。バンダイナムコがロボットキットを作って欲しいと個人的には望んでいる。
『Nintendo Labo』は可能性にあふれている
ニンテンドーDS発売の頃から任天堂はゲーム人口拡大を掲げ、インタラクティブな要素をもつものはゲームとなりうるというスタイルを貫いてきた。
ニンテンドーDSではタッチパネルを。Wiiではモーションコントロールを用いて、ゲームソフトに変化を加えてきた。今回Switchでは、ハードそのものをコントローラーにすることで、ゲームハードに変化を加えてきた。
これほどまでに能動的で、知的好奇心をくすぐり、制作意欲をかき立てるものは任天堂にしかやれないと思う。
「ダンボール売って収益を得るなんて…」「ばかげたことに金使わないで、ゲーム作れ」といった否定的な声も聞こえるが、『Nintendo Labo』は任天堂に余力があるからこそ出来るプロジェクトだと思う。
自動車メーカーで言えば、スポーツカーを作れなくなったらそのメーカーは怪しい。家電メーカーであれば、ぶっ飛んだ「誰が買うのよ?」という製品を作らなくなったら余力がないといわれるように、任天堂がまた売れるかわからないようなバカなこと始めたなというのは、任天堂がまだまだ健全である証拠だと思っている。
すでに予約コーナーが出来ているショップをみると、思いの外場所を取っている『Nintendo Labo』だけに、売れなかったら大変だなという不安もあるが、宮本茂のにおいがする『Nintendo Labo』を応援したい。
新たなムーブメントを生み出すことを切に願って。