カオスの世界「シルバー事件25区」レビュー

スポーツの世界では「2年目のジンクス」、「映画の世界では2作目は駄作」、そんな話がよく話題になるものである。

では、ゲームの世界ではどうだろうか?

スポーツの世界は複数年契約などがあるから、2年目、3年目と選手としてチームのために働くことが約束されている。結果がどうであれ。

映画の世界は、監督の実績や原作の有無などで初めから続編ありきで作られることも多い。巨大な金額が動く映画業界ならではの話だろう。

ゲームの世界で、初めから続編ありきで開発が始まったという話はあまり聞いたことがない。どんなに開発者に実績があろうと、続編の補償などない。ゲームが発売され、一定の評価を得て初めて、続編が動き出すという流れになっている。(評判が良くても続編が作られない、何故続編が作られるのかわからない作品もあるが)

作品の評価次第で続編が動き出すという仕組み上、次作が出るまでに長い時間がかかるのは仕方がない。続編が動き出すまでに多くの人が忘れるほどの時間を要するものもある。規模を縮小して展開されるものも多いのがゲームの続編だ。

「シルバー事件25区」もそんな続編タイトルのひとつだ。2005年に携帯電話アプリとして発売されたものがリメイクされ、PS4とSteamで発売されている。

私のプレイ環境はVAIO Tap21でSteam版をプレイしている。

カルト的と評された「シルバー事件」を超える作品か否か?続編としての価値を見ていこう。

目次

ゲーム業界2作目の壁

続編が失敗に終わることが多いのは映画に限らずゲームの世界でも多い。「スーパーマリオブラザーズ」も2は鬼畜難易度として、微妙な評価に終わっているし、「ファイナルファンタジー」も2は既存の経験値システムをなくしてシステムを大きく変更した結果、時代を先取りしすぎたといった微妙な評価になっている。

 

ただ、FC時代のゲームは家庭用ゲーム機の始まりと言ってもいい時代の話なので、シリーズ物を作るノウハウも存在していなかった時代の話だ。加えて、今のようにインターネットが普及して、作品の評価をあらゆる場所から拾い上げること自体難しかった時代の話である。アンケートはがきと、電話によるユーザーからの問い合わせくらいしかなかったのだから、続編も手探りで作るしかなかったのだろう。

続編が成功したシリーズというと、すぐに思いつくのは「バイオハザード2」くらいだろうか?初代のスマッシュヒットから、満を持して発売された2作目は2人の主人公にザッピングシステムと非常に完成度の高い内容になっていた。

 

他に思いつくものといえば、「伝説のオウガバトル」の続編として発売された「タクティクスオウガ」だろうか?後のシミュレーションRPGに大きく影響を与えたこの作品も、数少ない続編が成功したタイトルと言えるかもしれない。(ゲームシステムが初代とは全くの別物になっているので、続編と呼んでいいのか判断が分かれるところだが)

 

ゲームの世界においても2作目の壁というのは存在する様に思える。記憶をもっと掘り起こせば、2作目が名作と呼ばれるタイトルが出て来るのかもしれないが、その数は少ないだろう。

ただ、2作目の壁を越えて、3作目に到達したときに名作となっているタイトルは多い。「ドラゴンクエスト3」や「スーパーマリオブラザーズ3」など、2作目で成功したタイトルよりも数多く挙げることができるだろう。

「シルバー事件25区」は移植なのか?リメイクなのか?

「シルバー事件25区」のオリジナル版はシルバー事件の続編であるが、プラットフォームを家庭用ゲーム機からモバイルアプリとダウングレードした感は否めない。続編ではあるものの、前作との間には6年の空白があり、オリジナル版を遊んだ人は数少ないと思う。

かく言う私もオリジナル版は遊んでいない。携帯電話でゲームを遊ぶという感覚は、今に至っても持ち合わせては居ない。操作性というゲームにおいて重要な要素をコントローラー以上に満たしているデバイスはないという考えからだ。

操作方法に繋がりはない

プレイし始めてまず最初に感じるのは、操作性の悪さだ。前述したとおり私はオリジナル版を遊んではいないので、操作方法がオリジナル版を踏襲したものなのか変化を加えたものなのか判断は出来ない。

前作のように3Dダンジョンを移動するシーンが多々あるが、操作感覚は前作と変わり選択式となっている。十字キーを押し変えるだけで方向を変えることができた前作とは違い何度も選択肢を選びながら進むことになり、手間が増えた分だけ面倒になっている。

誤操作をしにくいという面や、「キラー7」を彷彿とさせる演出といえば悪くもないが、シルバー事件HDリマスターを遊んでから続けてプレイするには違和感を感じる要素だ。

他にも、パスコードを入力する場面で文字や数字を選ぶUIも操作性が悪い。視覚的にはキューブがくるくると回っておもしろいのだが、直感的ではないため慣れるまでイライラさせられる。パスコード入力に用いる端末名が「キャサリン」だったりするあたり「花と雨と太陽と」を思い起こさせるので、須田ゲーファンにはニヤリとさせられる部分ではあるが。

オリジナル版を遊んでいないので推測でしかないが、この操作システムはモバイル版の移植なのだろうと思う。家庭用ゲーム機で発売するのであれば、改善があっても良かったというのが率直な感想だ。もしくはシルバー事件HDリマスターと操作性を統一することも考えて良かったのではと思う。

とはいっても、ユーザーに対して不親切、面倒という要素は須田ゲーにおいて意図的に用意されていたりするので、「須田ゲーだから」で納得させられてしまうのが須田ゲーファンの性かもしれない。

余談だが、シルバー事件HDリマスターはXbox oneコントローラーでプレイしてもBボタンが決定、Aボタンがキャンセルという日本式だったが、「シルバー事件25区」では逆になっている。このあたりもゲーム開始時に戸惑う要素であり、ちぐはぐな印象を受けた。

加えてゲーム中に途中セーブするためのオプション画面を開くのは、Yボタンとなっていた。これに気づけなくて、私は長いこと途中セーブできない不親切なゲームだなと遊んでいた。Steam版を遊ぶ方はYボタンでオプションというのを覚えておいて欲しい。

動から静への変化

プレイステーションからモバイルゲームとプラットフォームを移した結果、シルバー事件の特徴でもあったフィルムウィンドウはそれっぽいモノへと変化してしまった。

動的なインターフェイスを目指したフィルムウィンドウであったが、「シルバー事件25区」では同じように複数のウィンドウを重ねてはいるが、静止画が多く使われている。

シルバー事件HDリマスターのように、3D描写ではローポリゴンを意識した作りになっている点は共通要素にはなっているが、前作ほど演出として使われてはいない。

狂気じみたテキスト表記も今作ではなりを潜めている。それもあってかずいぶんと落ち着いた印象になっていて、動的なフィルムウィンドウとは別のUIになった印象を受ける。

前作のような洗練されたイメージは失われたが、静止画が放つ魅力という点において言えば、今作は十分魅力を放っていると言える。プレイしながら、記事のためにとスクリーンショットを撮りまくったのだが、その多くが魅力的でどれを使おうか本当に迷った。意味も無くスクリーンショットを並べてしまいたいほどに。

前作が既存のアドベンチャーゲームに対するアンチテーゼならば、今作は須田剛一によって磨き上げられた古き良きアドベンチャーゲームだ。

前作のフィルムウィンドウの進化した形を見たかった者にとっては残念ではあるが、発表されたプラットフォームの違いを考えれば致し方ないといえる。それでも、今作には今作ならではの味があり、私は悪くないと思う。

「シルバー事件25区」はオリジナル版の要素を残した、踏襲し作り直された作品ではなく移植作品である。操作性、フィルムウィンドウなど家庭用ゲームへと最適化されたものではない。リメイク作品を期待しているのならば、プレイした途端に肩すかしを食らうことになるだろう。

 取り留めの無い話の集合体

「シルバー事件25区」は前作から6年後の世界の話で、舞台は共通している。

前作では伝説の犯罪者ウエハラ・カムイを巡り、いくつか脱線しながらも1本芯の通ったストーリーだったと思う。プレイヤーは特殊部隊の生き残りとして、事件に介入しながら物語を追う形になっていた。

「シルバー事件25区」には前作ほどの中心に据えられた物語がないように感じてしまった。カミジョウという潜水夫の話しのようで、ジャブローの話のようで、クルミザワという男の物語のようでもある。話の根幹はコロコロと姿を変え、掴み所が無い。

前作のように、言葉を発しない新任捜査官としてプレイヤーは事件を垣間見ていくのだが、多くはプレイヤーが不在の中で物語が進んで行く。物語の中心にいることができた前作とは違って、徐々に物語から置き去りにされていく。ウエハラと名付けられた自分が何者かもわからずに、物語は加速していく。

「カムイ」というキーワードは出て来るが、前作ほどの重要性はない。数少ない前作との繋がりを持たせるためのキーワードでしかなくなっているように感じられてしまう。

登場人物は皆個性的で、須田ゲー特有の魅力を放っているキャラクター揃いなのだが、物語の進行と共にそれぞれが独自に物語を語り始めるように、本来の筋書きから離れるようにまとまりを失っていく。

「シルバー事件25区」のストーリーはまさに『混沌』である。バラバラに、散り散りになっていくストーリーを我々はまとめ上げていくしかない。ストーリーの難解さで言えば、須田ゲーの中でも屈指の難解さである。須田さん自身が「パッションで書き上げた」というのも、なんとなくわかる気がする。

[Placebo]編を始めた時に、前作からのプレイヤーにとっては安心感を得ることができるかもしれない。25区という見知らぬ土地で、知っている人に出会えたという安息が[Placebo]編にはある。

今回のモリシマ・トキオは記憶を失っているのだが、前作を知っているプレイヤーは彼を知っている。アカミミも健在だ。安心して欲しい。

[Placebo]編の追加シナリオとなっている「YUKI」では、モリシマ・トキオの結末が用意されている。個人的にこのシナリオが好きである。混沌と評したストーリーの中で、唯一の救いのように思えるこのシナリオが好きである。

逆に真のエンドとも言える「black out」は、人によっては怒りを覚えるかもしれない。このシナリオは、須田さんらしいなと個人的には好意的に受け止められたのだが、結末の雑さにニヤリとできるか、「ふざけんな!」と怒鳴りたくなるかは人それぞれだろう。

もう一度言う、人を食ったかのような『雑』さが「シルバー事件25区」の結末である。

まとめ

続編の価値を決める大きな要素は「期待値」なのだろう。次に出るモノは前作を上回るに違いないという「期待値」が人それぞれにあり、それを上回ることで駄作か、傑作かが語られる。比較対象がある分、作り手も作りやすいかもしれないし、受け手も評価しやすいのかもしれない。あるいは、逆の場合もあるかもしれない。

「シルバー事件25区」は私の中で前作を超えては居ない。カルト的と評された前作ほどの魅力は残念ながら、ない。

須田さんの作る作品は続編向きではないのかもしれない。思えば、「ノーモアヒーローズ」も1は夢中になって遊んだが、2は結構楽しかったな位の思い出でしかない。

では、「シルバー事件25区」は駄作なのか?と問われれば、答えはノーだ。一部の人間を惹きつけて離さない須田ゲーの魅力が詰まった作品だからだ。

何度も言っているが、須田ゲーは人を選ぶ。誰かにとってはクソゲーになり、誰かにとっては神ゲーになる。

結論は、ツキ・シンカイのセリフで締めくくろう。

個人的ゲーム採点

8.7/10

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